scene 1 午後・モララー孤児院前の道
散歩しているギコ、孤児院の前にやってくる。
ギコ「(なんとなく、ここに足が向いちまうんだよな…)」
しぃは道で掃除をしている。
しぃ「あら、ギコ君♪」
ギコ「お、おう。何だか忙しそうじゃねえか」
しぃ「神父様がカゼで寝込んじゃって、お手伝いに来てるの。
お掃除に、お洗濯に、お料理に… 神父様も大変だったのね…」
ギコ「そうか、季節の変わり目だからな。年寄りはムリしちゃいけねえよ」
しぃ「そろそろ子供たちのおやつの時間だわ。
ギコ君も食べていって♪」
ギコ「なんで俺まで?」
しぃ「今日のケーキは、新作の特製マロンケーキなの♪
子供たちが林で集めてきた栗で作ったのよ♪」
ギコ「俺は甘いものが苦手だ」
しぃ「あら、この前、お弁当のチョコケーキ、おいしそうに食べてくれたでしょ♪
そういえば、初めて会ったときも…」
ギコ「わかった、わかった、味見くらいしてやるよ」
しぃ「おいしい紅茶も入れるわね♪」
ギコ「(…やれやれ、かなわねえな…)」
二人、孤児院に向かう。
scene 2 モララー孤児院内
騒ぎながらマロンケーキを食べる子供たち。
「おいしいね♪」「しぃちゃんのケーキは最高でち♪」と大喜びしている。
しぃとギコはテーブルでまったりムード。
ギコ「店で売ってるケーキよりうまかったな」
しぃ「うれしい♪ 次も腕によりをかけて作るわね♪」
ギコ「…ああ、また今度な」
汗をかくギコ。
そこへモララー神父が入ってくる。
神父「やあ、ギコ君、いらっしゃい」
ギコ「よぉ、神父さん。ジャマしてるぜ。起きても大丈夫なのか?」
しぃ「神父様、ムリせずに、まだ寝ていてくださいな。」
神父「すまないね、しぃ君、助かるよ。
子供たちの遊び相手くらいは、と思ったんだが」
しぃ「ダメですよ、神父様。まず、カゼを治さなくちゃ。
…でも、私はこれから洗い物と夕食の支度をしなくちゃいけないし…
ギコ君、子供たちを見ていてくれる?」
ギコ「え? 俺がか? かんべん…」
その言葉が終わる前に、ギコにまとわり付く子供たち。
子供たち「わーい♪ギコ兄ちゃん、遊ぼう♪」「遊ぼ♪」×4
ギコ「…仕方ねえな…
おい、お前たち、庭に出て遊ぶぞ!」
子供たち「わーい♪」×5
外に駆け出す子供たち。
神父「すまないね、ギコ君。ありがとう」
しぃ「ありがとう、ギコ君♪」
ギコ「…今度だけだからな…」
少し照れながらギコも外に出る。
神父「口は悪いが、いい若者だな」
しぃ「…はい♪」
scene 3 モララー孤児院の庭
遊具は1つもないが、手入れの行き届いた広い庭である。
庭のすみには、たくさんの実を付けた柿の木が生えている。
ギコ「よーし、みんな、かけ回って遊んでこい!」
子供たち「わーい♪鬼ごっこしよー」「ギコ兄ちゃんが鬼になってー♪」
「わーい♪逃げろー」
ギコ「まず、ジャンケンだろが、ゴルァ!」
なしくずしに鬼ごっこが始まろうとしていたが、子供の1人は柿の木を見上げていた。
子供「わー♪柿がおいしそうでち♪」
子供に近づくギコ。
ギコ「おう、たくさん実が付いてるじゃねえか」
子供「この柿の木は、毎年、おいしい実をたくさんくれるでち。
神父様が子供の時に植えたんでちよ」
ギコ「そうか。(…神父さんも孤児だったのか…)」
子供「ボク、ギコ兄ちゃんに柿の実をとってきてあげるでち♪」
ギコ「お、おい、危ねえぞ!」
ギコの止める言葉も聞かず、木に登ってしまう子供。
すでに1つの実を取っている
子供「わーい♪とれたでち♪」
ギコ「おい、危ないから早く降りてこい!」
子供「はーい、おりるでち」
しかし、片手に柿の実を持ったままで、なかなか子供は降りられない。
木の幹までもう少し、というところで足を踏み外してしまう。
ギコ、全力で駆け寄り、受け止める。
ズザーッ!
ドシーン!
ギコ「大丈夫か!」
子供「わーん!いたいでちー!」と大泣き。
子供は地面で足をすりむいて、血が出ている。
他の子供たちも心配そうに見ながら、「大丈夫?」と口々に
ギコ「しっかりしろ! たいしたケガじゃねぇ!」
子供「いたいでちー!」
ギコ、しゃがんで、泣いている子供の頭をなでながら、
「男だろ! いつまでも泣いてるんじゃねぇ! がんばれ!」
ふりむいて、
「お前たち、しぃを呼んでこい!」
「はーい!」という声とともに、4人の子供たちが、しぃを呼びに走っていく。
しぃと子供たちが戻ってくるまでの間に、次第に泣き止む子供。
ギコ「すまねえ、俺がついていながら…」
しぃ「子供たちから聞いたわ。気にしないで。
それより、早くケガの手当てを。
…傷口に泥が入ってる。早く洗わなくちゃ」
ギコ「俺が運んでやるぜ」
子供を抱きかかえて、孤児院に戻るギコ。
ギコに続く、しぃと子供たち。
scene 4 夕方・モララー孤児院前の道
ギコとしぃが孤児院から門まで出てくる。
へとへとになっているギコと、にこやかなしぃが対照的である。
孤児院からは「ギコ兄ちゃん、またねー♪」と子供たちの声。
ギコ「…まったく、元気な連中だぜ…
手当てが終わったかと思えば、さっそく怪獣ごっこにお絵かきに…」
しぃ「うふふ♪すっかり人気者になっちゃったね、ギコ君♪
みんなが描いたギコ君の絵は、壁に貼っておくんだって♪」
ギコ「おいおい、かんべんしてくれよ…
とにかく、ヤボ用があるから、もう帰るぜ」
しぃ「今日はアリガトね、ギコ君♪ 神父様も感謝していたわ♪」
その言葉に赤くなるギコ。
ギコ「…よせやい、俺のガラじゃねえよ
じゃ、またな」
しぃ「ええ、またね♪」
顔を赤らめたまま、足早に去るギコ。
笑顔で見送るしぃ。
scene 5 深夜・モララー孤児院前の道
強い雨が降っている。
ギコが片手で雨を避けながら走ってくる。
ギコ「いきなり土砂降りかよ。ついてねえ。どこかで雨宿りするか」
ギコ、孤児院の門の前に着く。
ギコ「…また来ちまった…ここの屋根を借りるか」
足早に門をくぐるギコ
scene 6 モララー孤児院の玄関
ギコ、軒先で雨宿り。
一息ついて、窓を見てみると、深夜だというのに窓が明るい。
何やら、孤児院の中も騒がしい。
ギコが耳をすますと、中からは「お手伝いするよ」「みんなは寝てなさい」という声がする。
ギコ「(…どうしたんだ? こんな夜中に?)」
ギコは窓から中をのぞく。
scene 7 モララー孤児院内
孤児院の中では、神父,しぃ,子供たち全員が起きていた。
1人の子供だけ、布団に寝かされている。
その子は赤い顔をして、苦しそうな息をしており、神父が横に付き添っている。
しぃは、その子の体温を測ったり、汗をふいたり、氷のうを取り替えたりと、忙しい。
子供たちは、不安げにまわりで見守っている。
しぃ「…熱が下がらないわ…
…夕食前まであんなに元気だったのに、いったいどうして…」
神父「たぶん、足のケガからバイキンが入ってしまったのだ。
ここにはカゼ薬くらいしかない。お医者さまに診てもらわなくては」
しぃ「でも…電話が止められてて、往診をお願いすることができなくて…
いったい、どうしたらいいのかしら…」
神父「私がお医者さまを呼びに出かけよう」
しぃ「ダメです!
神父様もカゼをひいているのに、大雨の中に出かけるなんてムリです!」
神父「しかし…」
その時、寝ていた子供が、苦しい息をしながらも、しぃと神父に話しかける。
子供「ボク…だいじょうぶでち…がんばるでち…
ギコ兄ちゃんが言ってたでち…男だろ、がんばれって…
朝になって…雨がやんだら…おいしゃさまにつれてってでち…」
しぃ、泣きくずれながら、その子供を優しくなでる。
神父は目頭を押さえながら、「神よ、この子に御慈悲を…」と祈る。
まわりの子供たちは口々に「がんばれ」「がんばって」と励ます。
scene 8 モララー孤児院の玄関
ギコ、窓辺から離れ、玄関先で考え込む。
ギコ「…なんてこった…ほおっておけねえな。
しかし、医者までモタモタ歩いてたら、間にあわねえ…
…どうしたもんか…」
ギコ、腕組みしたまま、顔を上げると、何かに気付く。
ギコ「…ん? あれは!」
ギコ、道に向かって走り出す。
scene 9 モララー孤児院前の道
1台の車がゆっくり走ってくる。
運転している男(モナー)は、のんきな表情である。
車が孤児院の門に近づいた時、ギコは車の前に飛び出し、腕を広げて叫ぶ。
ギコ「ゴルァ! 止まれぇ!」
急ブレーキをかけた車は、ギコの直前で止まる。
男 「何だ、君は!? 危ないじゃないか!」
ギコ「うるせぇ! さっさと降りろ!」
ギコ、車のドアを開けると、男を引っぱり出し、自分が乗り込む。
男 「何をするんだ!? 私の車だぞ!?」
ギコ「こっちは急ぎなんだよ、ゴルァ!
後で返してやるから、そこの孤児院で雨宿りでもしてな!」
ギコの乗った車が勢いよく走り去る。
男は少し呆然としていたが、やがて、足早に孤児院へ向かう。
scene 10 モララー孤児院内
しぃは寝ている子供の看病に忙しい。
神父と子供たちが横に付き添っている。
ドアがノックされる音に続いて、男が孤児院の中に入ってくる。
男 「ごめんください。雨宿りをさせてくれませんか?」
神父「どうぞお入りください。
しかし、こんな夜更けにどうなさいました?」
男 「そこの道で、若い男に車を取られてしまいました。
まったく、何て乱暴なやつだ。返しに来るとは言っていたが…」
神父「それは大変な目に会いましたな。
しぃ、忙しいところをすまないが、タオルと熱いお茶を差し上げてくれ」
しぃ「あ…はい、神父様」
しぃ、台所に向かいながら、
「(…若い男?…もしかして…)」
scene 11 町の広い道
1台の車が猛スピードで走り抜ける。
少し間があいて、同じように猛スピードでパトカーが走り抜ける。
scene 12 モララー孤児院内
しぃの懸命な看病にもかかわらず、苦しい息の子供。
神父と子供たちは祈り続けている。
男も心配そうな顔をしている。
その時、外から車のブレーキ音が響く。
少し間があいて、医者が孤児院に入ってくる。
医者「こんばんは、往診に来ました。
高熱を出している子供というのは、その子ですな」
神父「お医者様!?…おお!神よ、ありがとうございます。
お医者様、よろしくお願いいたします」
医者「それでは、まず、足のケガから診てみましょう
坊や、痛くてもガマンするんだよ」
しぃ「(え…!?)
…先生、なぜそのことを?」
医者「私を車で連れてきた若い男に聞きましてな。外にいますよ」
しぃ「そうだったんですか。
神父様、私、行ってきます」
男 「もしかして、あいつのことか? 私も行こう」
しぃと男、外に出る。
子供たちは「ぼくたちのお祈りが神様に届いたんだー!」と大喜びしている。
scene 13 モララー孤児院前の道
1台の車が門の横に止まっている。男の車である。
しかし、車の中には誰もいない。
しぃ「いない…いったいどこに…
お礼を言いたかったのに…」
男 「あの男…お医者さんを連れてくるためだったのか。
きちんと話してくれれば、私も協力していたのに。」
そこへ、パトカーが走ってくる。
パトカーは、しぃと男の近くに止まり、中から警官が話しかける。
警官「その車を今まで運転していたのは、あなたですか?」
男 「いえ、ちがいます。私はさっきまで、そこの孤児院にいました。
この車は私の車ですが、見知らぬ男に乗り逃げされていたのです」
しぃ「おまわりさん、本当です。
この方は、私や神父様,子供たちといっしょにいました。」
警官「そうですか。分かりました。
運転者は、ここで車を乗り捨てたようですな」
警官、男のほうを向いて、
「あなたは、その男の顔を覚えていますか?」
男 「…いいえ。いきなりだったので、全然覚えていません」
警官「そうですか、ありがとうございます」
男 「おまわりさん、いったい何があったんですか?」
警官「その車は、町の中から追いかけてきたんですが、
スピード違反をはじめ、数え切れないほどの交通違反をしたのです。
事故にならなかったのが不思議なくらいですよ」
しぃ「まぁ…そうだったんですか」
警官「それでは、運転者の捜索に行きますので、失礼します。
みなさんも、お気をつけて」
パトカー、走り去る。
男 「…今度、あの男に会ったら、説教してやらないといかんな」
しぃ「…そうですね♪」
男 「それでは、私も失礼しよう。神父様と子供たちによろしくな。
それから、お医者さんには、朝、迎えに来るとお伝えしてくれないか」
しぃ「はい、お気をつけて♪」
男、車に乗り、走り去る。
しぃ、少し見送り、孤児院に戻る。
scene 14 翌朝・モララー孤児院前の道
雨上がりのきれいな青空が広がっている。
孤児院から、医者,神父,しぃが出てくる。
門の前では、男が車で待っている。
車の横で、医者が二人を振り返る。
医者「男の子の容態は峠を越しました。もう大丈夫でしょう。
栄養のあるものを食べさせて、食後に薬を飲ませてください。
3日ほどおとなしくさせていれば、また元気に遊べますよ。
神父様も、きちんと薬を飲んで、温かくしてください」
神父「ありがとうございました、お医者様。
何とお礼を申し上げればよいか」
医者「礼なら、あの若者に言わなければなりませんな。
名前は聞かずじまいだったが、どこの誰なんでしょう?…
それでは、お大事に」
医者、男の車に乗り、孤児院を去る。
神父「…さて、私は中に戻るとしよう。
しぃ、よろしく頼むよ」
しぃ「はい♪神父様」
神父、孤児院に戻る。
入れ替わりに、何気ない顔のギコが孤児院の前を通りかかる。
ギコ「よぉ、誰か来てたのか?」
しぃ「おはよう、ギコ君♪
昨日ケガした子が熱を出しちゃって、お医者様が往診に来てくれたの」
ギコ「そりゃ大変だったな、もう大丈夫なのか?」
しぃ「ええ、おかげさまでね…ギコ君♪」
ギコ「…な、なんのことだよ、ごるぁ」
しぃ「ギコ君がお医者様を連れてきてくれたのね♪」
ギコ「し…しるかよ、そんなこと」
しぃ「お医者様は、あの子が木から落ちたときのことまで知ってたわ。
ギコ君しか知らないことまで、とっても詳しくね♪
お医者様を連れてくるとき、ギコ君が話してくれたんでしょ♪」
ギコ「…いや…その…なんだ…どうでもいいじゃねぇか!…」
ギコ、何も言い返せなくなり、そっぽを向く。
しぃ、ほほえんで、そっとギコに近づき、頬にキスをする。
ギコ「…え!?…」
ギコ、一瞬、何が起きたか分からずにいたが、
しぃの笑顔を間近に見て、キスされたことに気付き、顔を真っ赤にして固まる。
しぃも頬を赤くしている。
しぃ「さあ、中に入りましょ。お礼に、おいしいお茶を入れるわ♪
みんなもギコ君を待ってるわよ♪」
ギコ「…あ?…ああ…」
しぃは、固まったままのギコの手をとり、孤児院に向かう。
ギコは真っ赤な顔をしたまま、しぃと並んで歩く。
二人が孤児院に入ると、中から、ギコを出迎える子供たちの歓声が響く。
「わーい♪ ギコ兄ちゃん、遊ぼー♪」
(おわり)
あとがき
私がこのお話を書いたいきさつは、前のページに書いたとおりで、モナ倉さまの記念企画に応募させていただいた時には、あらすじは出来上がっていました。
私のほかにも多くの方が記念企画に応募されていたことと思います。
ですから、モナ倉さまから記念企画当選の連絡をいただき、正式に書き始めたときには、「見ていただいた方に楽しんでもらえるお話にしなくっちゃ」というプレッシャーが、一番大きかったです。
「ふたり」「おくりもの」「おべんとう」に続くお話を書かせていただくことで、設定などは楽をさせていただきました。(^^;
1週間ほどかけて書いた後、モナ倉さまに送った最初のストーリーが、上の「原作」です。
モナ倉さまは、さっそくムービー作りを始めてくださったのですが、すぐに出てきた問題が「セリフが長い」「ストーリーが長い」ということでした。(^^;;
文章書きの私はセリフを長くしがちだったようです。また、ストーリーの長さは、ムービーそのものの重さにつながります。モナ倉さまと相談しながらのムービー作り(ムービー作りの作業そのものは、モナ倉さまだけでしたが (^-^;) )は、この2つの問題を、うまく解決することだったような感じもします。
今、あらためて読み返してみると、やっぱりこの「原作」は未完成の作品で、モナ倉さまに「あめあがり」というムービーに仕上げていただくことで、1つの作品として完成したんだと思います。
それと合わせて、原作者としては、ムービーにはしなかったストーリーも紹介したいな、と思い、このような形(映画のパンフレットみたいな感じ?)で発表してみました。
ムービーとはちょっとちがう「あめあがり」、いかがだったでしょうか? (^-^)
私のつたないストーリーを、感動的なムービーに仕上げていただいたモナ倉さま、そして、暖かい感想を寄せていただきました視聴者の皆さまに、心から感謝しています。(^^)
2002年12月 Altair